EXHIBITIONS
YAYOI KUSAMA
草間彌生(くさま やよい)
1929年長野県生まれ。
幼少期より幻覚や幻聴に悩まされていた草間は、作品制作に没頭することで心のバランスを保ってきました。1957年に単身渡米しニューヨークを拠点に活動し、ネット・ペインティング、ソフト・スカルプチュア、鏡や電飾を用いた革新的なインスタレーション作品を発表しました。さらにボディ・ペインティング、ハプニング、ファッション・ショー、映画など多様な表現を欧米で展開。1973年に帰国後、活動拠点を東京に移し美術制作に加え詩や小説の文筆活動も行っています。2017年には「草間彌生美術館」(東京都)が開館しました。
世界で最も人気のあるアーティスト(イギリス「The Art Newspaper」誌/2014)、世界で最も影響力がある100人(アメリカ「TIME」誌/2016)に選ばれた他、主な受賞歴は、朝日賞(2001)、文化功労者(2009)、文化勲章(2016)など。
Infinity-Nets
網目模様が無限に広がる《インフィニティ・ネット》。草間の代名詞ともなっている水玉模様を写真でいう「ポジ」と捉え、その地になる網目模様が「ネガ」であると彼女は語ります。ひとりの人間、世界、そして宇宙までもが計り知れないほど多くの粒子で構成されています。粒子のような水玉の残骸である網を寄せ集めることによって、草間は果てしない宇宙の中ではたったひとつの水玉に過ぎない自らの生命を見ようとしました。
由布院という小さな町は、そこに暮らす人々や訪れる人々によってその存在が目に見えるものとなります。由布院の存在はこの地を愛する人々によって証明されると言えるでしょう。
TATSUO MIYAJIMA
宮島達男(みやじま たつお)
1957年東京都生まれ。
宮島の作品は「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づいています。1980年代半ばからLEDを用いて1から9までの数字が変化するデジタルカウンターを使ったインスタレーションや立体作品を中心に制作を行ってきました。LEDは「0」で消灯し、しばらく暗くなると再びカウントを開始します。この数字は生から死への旅を表しており、仏教の生まれ変わりと再生の考えを象徴しています。1988年ヴェネツィア国際ビエンナーレでの作品で国際的な注目を集め、それ以来国内外で数々の展覧会を開催し30カ国250か所以上で作品を発表しました。
主な受賞歴は、ジュネーブ大学コンペティション優勝(1997)、第5回日本現代美術振興賞受賞(1998)、ロンドン芸術大学から名誉博士号授与(1998)、文部科学大臣芸術奨励賞受賞(2020)など。
Time Waterfall - panel #COM
《Time Waterfall》を直訳すると、時の滝。そのコンセプトは「現在に生きる」です。大小さまざまな数字が滝のように降り注ぎ二度と戻らない時間を象徴しています。それぞれの数字は異なる速度で現れ、複雑な視覚効果を生み出しています。それは、現在に生きる人々の人生が絶え間なく進み、時には他の人の人生と重なりながら過ぎていくことも意味しています。
観光地として賑わう由布院では、そこに長年暮らす人々、土地に惚れ暮らし始めた人々、土地に憧れ訪れる人々、その様々な人生が交差します。自分の時間を感じながら、他人との時間を共有する。ここではまさに、宮島の掲げるコンセプトを体感できると言えるでしょう。
HIROSHI SUGIMOTO
杉本 博司(すぎもと ひろし)
1948年東京都生まれ。
杉本の活動分野は、写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐に渡ります。彼の作品は、歴史と存在の一過性をテーマとしています。そこには、経験主義(人間の全知識は経験に由来するという考え)と形而上学(かたちを持っていないものを認識しようとする学問)の知見をもって、西洋と東洋との狭間に観念の橋渡しをしようとする意図があります。時間の性質、人間の知覚、意識の起源といったテーマがそこでは探求されます。
2008年には建築設計事務所「新素材研究所」を、2009年には「公益財団法人小田原文化財団」を設立。
主な受賞歴は、毎日芸術賞(1988)、ハッセルブラッド国際写真賞(2001)、高松宮殿下記念世界文化賞絵画部門(2009)、秋の紫綬褒章(2010)、フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲(2013)、文化功労者(2017)など。
海景
杉本の代表作のひとつでもある《海景》シリーズは、「古代人が見ていた風景を現代人も見ることは可能なのだろうか」という杉本が自身に投げかけた問いから生まれました。そこに映るのは空と海。たったそれだけが古代から現代まで変わらない風景だと杉本は考えました。そしてそれは、彼の初めての記憶として残る心象風景でもありました。海景シリーズの第一号であるカリブ海、湖面から立ち昇った水蒸気が空を覆いつくし幻想的なスペリオール湖、霧の海の撮影に初めて成功したエーゲ海など、300点を超えるシリーズの中から5作品を展示しています。
当館では、この海景が納められた《光学硝子五輪塔》も併せて展示しています。杉本は自分自身の心象風景である海景を意識の源として《光学硝子五輪塔》の中に閉じ込めました。
TAKASHI MURAKAMI
村上 隆(むらかみ たかし)
1962年東京都生まれ。
村上は、浮世絵など日本の伝統絵画と現代美術の起こりをアニメ・マンガの視覚論を通して再構想する「スーパーフラット」論を提唱しました。Miss Ko²、DOB君など、おたく文化を反映したキャラクターを多く生み出し、低俗性の高い彫刻作品や西洋絵画にみられる透視図を対極とした超二次元的な絵画を発表しています。また、ルイ・ヴィトンやカニエ・ウエスト、ドレイクらとのコラボレーションやストリートファッションと現代陶芸に着目した近年の活動を通して、現代美術の垣根を超えた観客層を世界中で獲得し続けています。
村上自身が企画した展覧会「リトルボーイ」(ニューヨーク/2005)は、全米批評家連盟によるベストキュレーション賞に輝き、初の回顧展「©MURAKAMI」(2007-2009)は、欧米4都市を巡回。その後もフランス、カタール、モスクワ、香港など国内に留まらず世界中で個展を開催しています。
Kawaii! Vacances d’été: Above Us, the Azure Sky
村上の代表的なモチーフのひとつである「お花」。これは、日本のキャラクター文化の延長線上に生まれたといいます。
村上は自身の核心部分に存在するものが日本のアニメ文化であると気付き、日本のキャラクター文化を分かりやすい形でアートとして生かそうと考えました。日本画を学んでいた彼は、定番のテーマである「雪月花」や「花鳥風月」とサブカルチャーと呼ばれる日本のマンガ・アニメ・ゲームなどから生じた現代の「カワイイ」キャラクター文化を結び付け「お花の中心にファンシーな笑顔を描く」ことを始めました。シンプルな発案にも感じられますが、その形状へのこだわりは強く、毎回細かくマイナーチェンジをしています。また、ひとつひとつの表情を見ていくと笑顔でないお花も描かれています。お花の笑顔にはポジティブなイメージだけでなく空虚感や威圧感も込められているのです。
YOSHITOMO NARA
奈良 美智(なら よしとも)
1959年青森県生まれ。
1988年からドイツで過ごし、制作を行いました。帰国までの12年に及ぶここでの生活は奈良の思考、テーマを明確にしました。個人や想像の自由を前提に、子どもの抵抗や反抗の感情から静寂や平穏に至るまで幅広い感情を作品を通して表現しています。奈良が描く子どもが少し不機嫌そうな表情をしているのは、喜びや楽しさだけでなく、悲しみや怒りでさえも素直に顔に出す子どものように、彼が作品に素直な感情を込めているからです。奈良は、大衆音楽や幼少期の記憶、最近の出来事など様々なものからインスピレーションを受け、主に感情や孤独感、反抗心などを再解釈し、多方面から自らの感性を注いで制作活動を続けています。2017年には現代アートスペース「N’s YARD」(栃木県)がオープンしました。
主な受賞歴は、ニューヨーク国際センター賞(2010)、第63回芸術選奨文部科学大臣賞(2013)など。
Your Dog
奈良の作品からはある種の孤独を感じます。それは奈良自身が孤独と寄り添って作品を生み出しているからでしょうか。由布岳の麓に佇む《Your Dog》という犬は、たった一匹でそこにいますが決して不幸そうではありません。その表情は穏やかで微笑んでいるようでもあるし、眠っているようでもあります。そして、まるでいつも誰かを待っているようです。奈良は子どもの頃の自身との対話から作品を生み出してきました。彼は自身の幼少期を振り返り「ひとりでいるのは寂しかったけど嫌じゃなかった」と語ります。「人はひとりでは生きていけないが、ひとりになる時がなければいけない」とも。誰もが目に留め愛されるこの一匹の犬は、由布院を象徴する由布岳と同じように、変わらずそこに佇みこの土地を見守る新たなランドマークとなるでしょう。
KOHEI
NAWA
名和 晃平(なわ こうへい)
1975年大阪府生まれ。Sandwich Inc.主宰。京都芸術大学教授。京都を拠点に活動。
感覚に接続するインターフェイスとして彫刻の“表皮”に着目し、2002年にセル(細胞・粒)という概念を機軸として「PixCell」を発表。その後も名和は彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の持つ物性がひらかれるような知覚体験を生み出してきました。近年では、アートパビリオン「洸庭」など建築のプロジェクトも手がけています。
主な展覧会は、彫刻作品「Throne」の特別展示(フランス/ルーヴル美術館/2018)、個展「TORNSCAPE」(東京都/スカイザバスハウス/2021)、個展「PixCell Moment」(アメリカ/ペース・ギャラリー パロアルト/2022)の他、ベルギーの振付家/ダンサーのダミアン・ジャレとの協働パフォーマンス作品「VESSEL」(2016~)、「Mist」(2022)、「Planet [wanderer]」(2021~)など。
Ether (lava)
《Ether (lava)》は、粘度の高い液体が空からゆっくりと地面に落ちていく様子を3Dモデル化した彫刻作品です。空から落ちる一滴のしずくが、表面張力によって空中で球体に近づき、表面に接すると刻々とフォルムを変えてやがて平面に落ち着く――。そんな液体の観察から得られたシルエットを3D上で回転させ立体のフォルムを生成し、さらに同じ形状を上下反転させたものを一対として組み合わせています。この上からの重力を下から打ち消す「反重力」の作用で、無重力状態を表すユニットの反復が「無限柱」のように空高く積み上げられています。表面を覆う炭化ケイ素は、細かいダイヤモンドの破片のように鋭い反射光を放って煌めき、九重連峰から採取した砕石のフィールドにそびえ立っています。
MARIKO
MORI
森 万里子(もり まりこ)
1967年東京都生まれ。
1990年代半ばより国際的に注目され世界各国の国際展に参加し、国内外で多数の個展も開催しています。主な展覧会は、「ピュアランド」(東京都/2002)、「Wave UFO」(アメリカ ニューヨーク/2003)、「Oneness」(ブラジル リオデジャネイロ/2011)、「Rebirth」(イギリス ロンドン/2012)など。中でも「Oneness」展は入場者数50万人を記録し、当年の展覧会入場者数で世界1位となりました。近年は屋外への作品設置プロジェクトも手掛けており、「サンピラー」(沖縄県宮古島/2010)の他、リオオリンピックの公式文化プログラムの一つとして設置された「Ring: One with Nature(リング: 自然とひとつに)」(ブラジル リオデジャネイロ/2016)などがあります。主な受賞歴は、第47回ヴェネツィア・ビエンナーレ優秀賞(1997)、第8回日本現代藝術奨励賞(2001)、ロンドン芸術大学より名誉フェロー授与(2014)など。
Eternal Ⅰ
《Eternal Ⅰ》は、最新の宇宙物理論「エキピロティック宇宙」または「エンドレス宇宙論」という環状型の宇宙論からインスピレーションを受けて制作されました。それは、宇宙が永遠に生死を繰り返すという、輪廻転生に通じる理論だと考えられます。宇宙の生死という巨大スケールの時空間をひとつの流動的なエネルギーに置き換えて形にしてみたいと、森は考えました。目に見えない領域を模索し、想像力を使い、それを3Dモデルのプログラムから自由に立体にした《Eternal Ⅰ》。その制作過程で、この世界には形を持たない隠れた存在がたくさんあり、それこそがこの世界を豊かにしている、と森は実感したそうです。
由布院という自然豊かな土地にも目に見えない「なにか」が潜み、それが人々を惹きつけるのかもしれません。